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 君は、桃太郎の物語のどこが大切だと思いますか?
 私は、お腰につけたきび団子を犬たちに施すところ。ここが大切だと思います。この「きび団子」を心に置き換えて、現代の社会に照らし合わせてみましょう。

 昨今世界中を騒がせているコロナウィルスの拡散問題。その根底には人間社会の欲望に原因があるのは明らかです。世界中を行き交う人と物、今の生活に満足していればこれほどの拡散にはつながらなかったはずです。もっともっとという欲望がコロナウィルスという怪物を生み出したのではないでしょうか。

 養老孟司氏が次のように語っています。「みんなは、生き物を軽く見ているのですよ。特にコロナウィルスのように微細なものは、構造は分かっても、人間にどう影響するのか未解明です」と。さらに、「人間には都合のよくない新型コロナウィルスも多様性の一つ。登場してしまったからには、共存するしかない」と語られ、最後に「世の中も自然も、思うにまかせぬものですから、起こったことはしょうがない。その結果をいかに利用し、生き方を見直すかで、先行きがちがってくる」と指摘されていました。
 君は、「生き方を見直す」ってどういうことだと考えますか?

 今回のコロナウィルス問題は、人の交流を封鎖すれば収束へと向かいます。が、その反面、経済もストップしてしまうと言う副作用があります。しかし、人間のもっともっと楽しみたいという欲望が、感染を広げる原因の一端であるのは間違いありません。
 今こそ、人類の生き方を見直す「チャンス」ではないかと思います。「もっともっと」を自粛して「足るを知る」こと。これこそ大切な「心のきび団子」なのです。わずか一つのきび団子、これで足りるのです。きび団子一つで鬼退治のお供をした犬たちのような、謙虚で勇敢な生き方を取り戻そうじゃないですか。
 禅の専門道場に入門した時、数か月間は道場から托鉢以外に出ることがありませんでした。その生活からは快楽欲や金銭欲や名誉欲などというものはまったく無くなり、いまここの自分に与えられた課題に集中することができました。
 この状況は、「足るを知る」ことの大切さに目覚めるよい機会なのです。現代人の勝手きままな自由をきちんと奪ってくれたのです。そして、平穏な日常のありがたみを自覚させてくれるはずです。

笠 龍桂(かさ りょうけい)

臨済宗建長寺派布教師会副会長、臨済宗連合各派布教師、小田原市川東仏教会副会長。

昭和35年、滋賀県生まれ。16歳の時、臨済宗妙心寺派・瓦屋寺徒弟として出家。花園大学仏教学科卒。在学中に京都・法輪寺、神戸・祥龍寺にて小僧修行。大学卒業後、埼玉・平林寺専門道場にて雲水修行。昭和61年臨済宗建長寺派、小田原・東学寺住職に就任。昭和62年開単の坐禅会は33年継続され多くの参加者の心のよりどころとなっている。

仏教情報誌『大法輪』にも原稿を提出し、広く仏教布教に力を注いでいる。著書に『めんどうな心が楽になる』(牧野出版・共著)など。

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