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 桃太郎は、まだ善悪の感覚が乏しい幼少期の子供達には典型的なサクセスストーリーとして、受け止められることでしょう。少しの疑問もなく孔子の教えの様に、お爺さんやお婆さんを大事にして(孝)、自分たちの仲間に忠義を尽くしています。さらに勇敢にも鬼を退治に出かけ、犬と猿とキジに会えば、キビダンゴを分けて、一人で行くよりは皆んなで行こうと説得しています(仁や智や義)。そして天に選ばれしものの様に、立派に鬼を退治するのです。

 孔子は、この様に仁という優しさと、礼節を重んじて、徳を養ったものが国を治めるのが最も良いと示しています。

 しかし、この桃太郎の話は、いろいろな人から善悪の逆転という視点で論じられる様になりました。「果たして、桃太郎は本当に良いことをしたのだろうか。」中学生くらいになると、この疑問を持つかもしれません。鬼は何千年も村の物を取ることで生活してきたのだとしたら、獣が小動物を取って食べる様にそんなに悪いことだったのでしょうか。

 孔子の教えに対して、今から二千三百年以上前に荘子は盗跖という大盗賊のお頭を紹介しています。

 その盗跖には、九千人もの子分がいました。その子分は盗跖に忠実で、盗跖は、好き勝手に振舞っていました。そこに知り合いだった孔子が説得にやってくるのです。「人は徳を養って親や国のために尽くさなければならない。どうだ、役人になる道を探してやろう。」と。

 それに対して盗跖は、「盗賊に徳がないわけではない。でなければこんなに子分が集まるわけないだろう。計画を立て、真っ先に押し入るを勇と言い、誰よりも後から退却するのを義と言い、分け前を平等に分けるのを仁という。しっかりとやっておるのだ。あなたが言う徳を養って国を治めたものが、人を殺して回るのも例に挙げたらきりがないではないか。それにそなたの顔回という弟子は、さぞかし正しいと思うことを言い回っていたが、ずいぶん早く死んでしまったようですね。」そう言われて孔子は、返す言葉がなかったという話です。

 最近でも、レバノンで英雄扱いの、一人の男が日本の労働者を何万人も失業させて、何億円もの金をかすめ取って逃亡した事件がありました。

 徳がある、カリスマだという大騒ぎの裏で落とし穴が待っていることを盗跖は、示していた様に思われます。荘子は、慎ましく自分が有能でもとぼけているくらいがいいと言っています。どちらを選ぶかは、性格次第なのでしょうか。

能満寺 松本 隆行

•昭和47年11月22日生まれ(建長寺の開基北条時頼の命日と同じ)
•昭和56年7月得度(お坊さんになること)
•このころ後に修行道場で寝起きを共にする友と初めて出会う。
•建仁寺の素堂老師に手紙をたびたび送る。温かい返事に僧侶になることを夢見る。
•昭和58年5月26日師僧でもある父、明也和尚遷化。本人10歳。
•以後長い間お世話になる、厚木の長福寺さまに師僧転換。熱心な指導の元、平成8年4月建長寺専門道場に掛塔。栢樹庵吉田正道老師について参禅弁道の日々をおくる。
•平成11年10月1日老大師より能満寺住職として未熟者ながら任命される。道号は、無心
•テレビ出演:有吉反省会、ぶっちゃけ寺(テレ朝)、バイキング(フジテレビ)、業界調査バラエティーこんなことで揉めてます(テレ東)
• 映画「三月のライオン」後編の葬儀の導師役

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